塔の双子 ...05
道中、ハーディはなるべく口をつぐんでいた。もとより、ガーディとの会話に、言葉はほとんど必要ない。目配せと指先の仕草だけで事足りるのだ。
無言でいる双子を気味悪がってか、あるいは偽りの貴族のご機嫌でもとっているつもりか、中年男は聞いてもいないことをぺらぺらと喋った。
あの村で馬を持っているのは自分だけだということ。ヒツジの毛を紡いだものを使っての織物が特産品で、他の者の家には大抵、織り機があること。自分は皆が織った種々の商品を預かって、代表して街へ売りに行くということ。
「ほら、見えますか? もうすぐつきますよ」
言われて顔を上げると、確かに見えた。
石の壁に囲まれた、巨大な街。
・・・
門の前で馬車は止まった。
手続きがあるらしく、男は離れていく。その隙に、ハーディはガーディと馬車を降り、人混みに紛れて街へ入った。これ以上男と一緒にいたのでは、嘘がばれてしまう。
ただ街の奥へと進むのに、一生懸命だった。門の内側は人が多く、二人は離ればなれにならないよう、きつく手を結んだ。
とても美しい建物だった。
壁は真っ白に塗られ、周囲には鮮やかな緑が豊かに茂っている。遠くからみたときには、青色の鱗屋根が目にまぶしかった。
扉は大きく開かれている。それがまるでいざなってくれているようで、二人は中へと入った。
窓がたくさん取られ、外と同様に明るい。建物の中だというのに噴水があることに驚いた。女性の彫像が、中心で水瓶を抱いている。
空気は不思議に柔らかく、心が安まるのを感じた。
手を繋いだまま、二人は呆然と彫像を眺める。精緻な彫刻は、像を生きているかのように見せていた。
頬の輪郭はまろやかで、閉じられた唇は優しげだ。伏せられた瞳は何色だろう。髪は風になびいているみたいにふわりとしている。
近くで足音がして、二人は同時に顔を上げた。いかにも優しげな面差しの、初老の男が話しかけてくる。
「美しいでしょう。この女神様の像は、街の皆の宝物なのですよ」
そう言って、しばし自分も女神像を眺める。
「お二人はどこからお出でですか? ずいぶん熱心に、見つめていらっしゃいましたが」
「……ずっと遠くから。こんなに美しい方ははじめて見ました」
像を振り返り、ハーディは言った。
ここに漂う空気は穏やかで、警戒心を緩めさせる。剣呑な感情は、この像の前では必要ないように思えた。
男は頷いた。
「どうやら旅のお方のようだ。宿は決まっていますか?」
「……宿」
聞き慣れない言葉だった。
「まだのようですね。一つ、いいところを紹介しましょう。と言っても、私の息子が経営しているのですが。……どうぞ、息子を頼ってください」
男は、女神像同様の、慈悲深く優しい笑みを浮かべた。