狼と森の番人 ...05
もう三日も、エルフィンが帰ってこない。
朝から晩まで声が枯れるほど名前を呼んで探すが、こそりとも気配がしなかった。
夜などは眠れるわけがなく、ベッドに腰掛けて、戸口を虚ろに見つめる。
恐ろしい時間だ。周囲は暗く、思いも同じように闇へ沈む。あるいは、夜の闇よりずっと深いかもしれない。
どう心を逸らそうとしても、最悪ばかりを考える。そればかりが明確な形を成して、あとはまともな考えになりはしない。名付けようのない、目が回るほど激しい思いの渦に、かき乱されていた。
あまりにも苦しくて、喉を押さえる。空気を求めて喘いだ。
どうか帰ってきてほしい。無事な姿を見せてほしい。そして叶うならば、もう二度と、離れないでほしい。
・・・
少しの間、眠っていたようだ。闇がほんのりと淡くなっている。夜明けはまだ遠いが、夜は確実に朝へ向かっている。
家の中を見渡した。エルフィンが帰ってきた様子はない。
戸口に目をやると、不意に引っ掻くような音がした。二度、三度と、音が続く。
呆然となって、それから弾かれたようにドアノブを掴み、開けた。
「……ああっ」
まともな言葉にはならなかった。
エルフィンがいる。前と変わらぬ姿で。
悪かったなとでもいうように、エルフィンはちょっと顔を俯けて見せる。セイジは首を振り、そしてしがみついた。
しかし、力が抜けきっていて、すがりつくことしかできない。
「エルフィン、よかった……」
エルフィンはしばらくじっとしいてくれた。やがて体を離すと、セイジの鼻先を温かく湿った舌でちょっと舐める。セイジが弱々しい笑みを浮かべると、今度は頭で肩を押してくる。
どうしたんだい、と尋ねかけて意図を悟った。中に入れと促しているのだ。自分の身を気遣ってくれているのだろう。気付いてみれば、空気は澄み切り過ぎて冷たかった。
「すまない、エルフィン。動けないんだ」
へたり込んだまま、セイジは笑う。エルフィンが鼻を鳴らして、体を寄せてくれた。なによりも温かい、真からのぬくもりだった。