狼と森の番人 ...epilogue
目が覚めた。
まばたきをすると、視界の中で、人影が像を結ぶ。
「……エルフィン?」
呼びかけた声は、ずいぶんしゃがれていた。長い間、話すことをしていなかったみたいに。
エルフィンは大きく頷いて、顔を歪めた。
「俺も、あなたを呼びたい」
初めて聞く、エルフィンの声だった。
「セイジ」
長い間、誰にも呼びかけられなかったがために、名前は、自分の中に残っていた。
告げると、繰り返される。その繰り返しの中に、どれだけ自分が眠っていたのかを知った。
「セイジ」
「ああ。……エルフィン。また会えてよかった」
もう二度と、会えなかったかもしれない。
森が降らせた黒い雪と一緒に、溶けていたかもしれない。
しかし、溶けたのは、別の誰かだ。
きっと、自分にとって、大切だった、もう一人。
- 2016.07.11