狼と森の番人 ... 01

 静けさの中で眼を覚ます。
 張り詰めた空気は薄い氷の層のようで、セイジが体を起こすと音もなく割れていった。
 ぎこちなく座り直して、暖炉を見る。火は消えてしまったままで、その前をお気に入りの場所としていた彼もいない。
 彼が姿を消して、十日が経っていた。

・・・

 彼はいつもセイジより先に目覚めていて、伏せた体を少し起こしている。
 おはようと声をかけると、ひとときセイジを振り返った。金色の瞳が、暖炉の火を受けて燃えるように輝く。この瞬間が好きだった。
 彼自身はきっと、自分の美しさを知らない。真っ白の毛並みの、凛々しい狼。
「エルフィン」
 前足に頭を休め、彼は小さく尻尾を振った。
 素っ気ない返事にも満足しながら、冷たい床に足を下ろす。
 暖炉に薪をくべて、火を大きくした。億劫そうな太陽が、冬の森に顔を覗かせるのはまだ二時間近く先のことだ。それまでは暖炉の火が頼りだった。
 寝間着から着替えてブーツを履く。このときばかりは、エルフィンが飽きず見つめるのは知っていた。狼の彼には、毛皮を脱ぎ着しているように見えるだろうか。

- 2018.03.13
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